デッドエンドの思い出

デッドエンドの思い出 (文春文庫)

デッドエンドの思い出 (文春文庫)

「これまで書いた自分の作品の中で、いちばん好きです。これが書けたので、小説家になってよかったと思いました。」

文庫本の帯に書かれていた、この作者の言葉に惹かれて買ってしまいました。
いつもながら繊細な心の機微をとらえた作品が多かったです。読んでると不思議と安心感があるというか、うまく言葉にできなかったけどそうそうそんな感じ、と思わせてくれるシーンがちらほら見つかります。

家族とか、仕事とか、友達だとか、婚約者とかなんとかいうものは、自分に眠るそうした恐ろしいほうの色彩から自分を守るためにはりめぐらされた蜘蛛の巣のようなものなんだな、と思った。そのネットがたくさんあるほど、下に落ちなくてすむし、うまくすれば下があることなんて気づかないで一生を終えることだってできる。